ステマが大炎上!ステルスマーケティングの海外事例から考察
ブログやSNSなどで一般個人を装った書き込みをするステマが急増中。昨今では卑劣な宣伝方法との認識が強まっています。海外の事例でも、炎上して謝罪に追い込まれるだけでなく、損害賠償請求などに発展するケースも。ただアメリカでは全てのステマが非難されているのではなく、低レベルなやらせに厳しい目が向けられています。
ステマ(ステルスマーケティング)概要
「宣伝であることを隠して宣伝する」手法であるステルスマーケティング。いわゆる「サクラ」手法ですが、インターネットの世界では主に、消費者に広告だとわからないようにする広告などを指します。消費者を騙す性質があるため、発覚すると反感を買い炎上するケースが世界中で増えています。今回は海外で起こった有名なステマ炎上事例をご紹介します。
インターネット上におけるステマ
インターネットが普及した現在、ブログや掲示板、SNSなどで個人を装った書き込みをするステルスマーケティングも急増しています。
最近よくあるインターネット上のステマ手法としては、一般消費者になりすまして口コミや記事を書く方法と、芸能人や一般のパワーブロガーに宣伝を依頼する方法があります。
ステマは悪印象が強い
ステルスマーケティングは、直接的な宣伝の効果が薄い層や、クチコミを重視している消費者に対して客観的な評価と錯覚させ自社製品をアピールすることができます。
しかし昨今は消費者を騙す卑劣な宣伝方法であるとの認識が一般に広まっており、かえって企業や対象商品に対して消費者の不信感や警戒心を煽ってしまい、逆効果となっていることも増えています。
日本におけるステルスマーケティング規制
日本では消費者庁が、2011年に景品表示法のガイドライン「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を公表し、景品表示法との関連を指摘しています。事業者がクチコミ情報を自ら掲載する、または第三者に依頼して掲載させ、その内容が実際のものまたは競争事業者に係るものよりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題とされています。
海外ではステルスマーケティング規制が厳しい
ガイドラインで法律抵触の可能性を示す程度にとどまっている日本に比べ、欧米など先進国では規制が厳しくなっています。
消費者を騙し、不利益をもたらす面を持つステルスマーケティングは、明確に法によって禁止されている国も存在するのです。
イギリスのステマ規制
イギリスでは2008年に、「不公正取引からの消費者保護に関する規正法(Consumer Protection from Unfair Trading Regulations 2008)」が制定、施行されてます。虚偽のクチコミやPRだと知らせない宣伝活動などを禁止しており、消費者保護の観点からステマを違法として取り締まっています。
アメリカのステマ規制
アメリカでは、連邦取引委員会(Federal Trade Commission)が2009年に、「広告における推奨及び証言の利用に関する指導(Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising)」を改定。広告だとの明示がないクチコミ広告において、広告主とブロガーなどの間に利益供与などがあった場合「欺瞞的な行為又は慣行」とされ、違法との判断もされています。
海外のステルスマーケティング有名な事例
法律で取り締まるほど、海外でステルスマーケティングは広く行われており、大きな騒ぎにもなっています。世界中に知れ渡っているような有名なステマ事件をここではご紹介します。
謝罪にいたったステマ事例
一般消費者を騙す性質のあるステルスマーケティングは、ひとたびそれだと明るみになると、消費者の反感を買ってしまいます。SNSなどを通じてあっという間に炎上し、大手企業であっても謝罪へと追い込まれています。
ウォルマート事件
小売りチェーンのウォルマートが依頼したPR会社が、一般人カップルを装ったブログを開設し、ウォルマートに好意的な記事ばかり投稿した事件です。そんなカップルは実在しないことがウォルマートに批判的な消費者団体に暴かれ、PR会社とウォルマートに非難が殺到。
このPR会社はクチコミマーケティング団体の倫理規定の作成にも関わっており、日頃から企業がブログ内容に関係する場合はそれを明示する必要があると主張していた当人だったこともあり、批判はどんどん拡大しました。
PR会社は問題発覚当初沈黙していましたが、最終的にはCEOが自身のブログ上で、ウォルマートの偽ブログへの関与を認め、謝罪しました。
Zipatoni事件
マーケティング会社のZipatoniが、米ソニーコンピューターエンターテイメントの商品であるPSPを宣伝するために、この商品のファンという若い男性を装い、個人ファンサイトを立ち上げ商品を絶賛したり、親に買わせる方法を紹介していた事件です。
ネット用語の使い方が不自然だったり、一部一般人が作ったとは思えない高クオリティのコンテンツが含まれていたりすることを怪しく思ったユーザーが調査し、Zipatoni社が運営していることが発覚。
ネット掲示板にこのことが報告され、一気に炎上しました。
米ソニーコンピューターエンターテイメントは、上記サイト上に謝罪文を掲載するに至っています。
謝罪だけでは済まなかったステマ事例
炎上したステマ事件の中には、謝罪だけでは収束されられなかった事例も存在します。損害賠償を支払うことになったり、サイトを閉じることになったりしてしまったのが、以下の事件です。
デビッド・マニング事件
米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが2001年に自社映画作品の宣伝として、週刊誌のプレスに実在しない批評家からの推薦コメントを掲載した事件です。
レビューの中で批評家は映画や俳優を褒めちぎっていましたが、ニューズウィーク誌の記者によって、コメントはねつ造であることが告発されました。
事件発覚後、米ソニー・ピクチャーズは経営陣のうち2名を一時停職とし、宣伝活動の監視強化を約束しました。しかし映画ファンの怒りはそれだけでは収まらず、映画評のねつ造によって被害を受けたと主張され、損害賠償を求める訴訟を起こされてしまいました。
結果、ソニーは訴訟を申し立てた観客1人につき5ドルで、合計150万ドル(約1億6000万円)の賠償金を支払いました。
Dr.Pepper/7up 事件
ミルク飲料「Raging Cow」の発売キャンペーンの一環で、販売元のDr. Pepper/7upが影響力のあるブロガー6人に商品やプロモーショングッズなどを手渡して、各自のブログで商品についての記事を投稿するように依頼した事件です。
Dr. Pepper/7upはブロガーたちに、依頼を受けていることを隠すよう指示していましたが、それぞれがブログに投稿した内容が不自然だったため、関係が発覚。
ブログの商業利用を嫌うユーザーから、Dr. Pepper/7upのやり方に対して批判のコメントが殺到しました。
Raging Cowのマーケティング担当者は、Raging Cowのブログ上の批判をすべて削除。最終的にはコメントができないように変更を行いました。しかし炎上は収まらず、有力者の不買運動にもつながり、
Raging CowブログもRaging Cow単独のサイトも削除に追い込まれる結末に。
それでもキャンペーン批判の声は多くウェブ上に残り、Dr. Pepper/7upは、ブログキャンペーンで失敗したブランドとして世界中に不名誉な知られ方をすることになってしまいました。
ステマに対する日米の認識の違い
日本でステマが世間を騒がせたとき、「ステマはアメリカでは禁止されている。日本も規制しろ」という声が多く挙がりました。
たしかにアメリカでは、明らかなやらせクチコミは2009年以来規制されています。実際に摘発された企業も出ています。
実はアメリカはステマ天国
しかし、ステマというものを、文字通り「宣伝であることを隠して宣伝すること」とするなら、実はアメリカでは普通に行われています。そして、全てが批判の対象になっているわけではないようなのです。映画の宣伝ではステマがよく用いられ、大ヒットしているものもあります。
架空団体が地球滅亡時に「箱舟」に乗る人を募集
2009年に公開されたパニックアクション「2012」のプロモーションでは、手の込んだステマがなされました。「IHC(人類維持研究所)」という架空の団体を作り、地球滅亡時に「箱舟」に乗る人をテレビコマーシャルで募集。それらしいサイトも立ち上げました。
CMは、注意深く見ていれば映画の宣伝とわかるのですが、真に受ける人が続出し、映画は世間の注目を集めました。
二段オチの動画ストーリー
2011年に公開された「リミットレス」では、さらに巧妙なステマが行われていました。その手法は、嘘の動画をユーチューブで二段階にわけて流すというもの。第一弾で、世紀の発明のようなすごい技術を開発したという内容の動画をアップ。「ありえない」「いやありえる」とコメント欄で真剣に議論され、アクセスも集中。
そんな中で、映画の内容をなぞらえる続編動画をアップ。種明かしというわけです。「リミットレス」は嘘動画により注目を集めただけでなく、ユニークな宣伝をしたということも話題となり、映画は飛躍的に知名度を上げました。
日本ではステマプロモーション行われない
日本では、このようなステマプロモーションはほとんど行われません。消費者の反感を買うばかりで、逆効果になってしまうのがオチでしょう。アメリカでは「うまいことするなー」と称賛されるようなものでも、日本ではコメント欄が罵倒で埋め尽くされる結果になる可能性が高いです。
なぜ日米で反応が違うのか
日米での反応の違いは、情報の接し方に大きな差があるかと考えられます。
アメリカでは、宣伝や情報メディアはそもそも「騙しのテクニック」なのだという考えがあるようです。よって、騙そうとする行為自体には寛容で、クリエイティブな騙し、ウィットに富んだ騙しはむしろ称賛に価するという態度が生まれるわけです。
それに比べて日本は、宣伝や情報メディアは信用できるものという認識される傾向があります。だから、下手であろうと上手かろうと騙しは騙しであり許せないとなるのです。日本人の感覚では、あらゆるステマは消費者を愚弄する悪の行為と見なされることになります。
アメリカ人が怒るのはステマの稚拙さ
アメリカでも、ステマを消費者への愚弄と受け取る場合があります。
ただ、アメリカの消費者が怒るのは、ステマという行為それ自体に対してではありません。
2006年にソニーが行った動画ステマが、あまりにずさんで、ダサくて適当だったことで炎上した事件がありました。その事例に見えるように、低レベルで「この程度で騙せるだろう」と消費者を馬鹿にしたような企業の姿勢が、アメリカでは批判の対象になっているのです。
法整備の可否に関わる日米のステマに対する認識違い
アメリカで規制されているのが「ステマ」ではなく「やらせクチコミ」である理由もそこにあるのではないでしょうか。やらせクチコミは、ステマだから悪いのではなく、ステマとして外道中の外道であり低レベルなものという共通認識があるから、それを前提として法運用できているのです。
「許されるステマ」と「許されないステマ」が区別されていない日本では、そこに線を引いて法律で禁止することは難しいことです。やらせクチコミを禁止すれば、あらゆるステマを取り締まることになり、ひいてはあらゆる宣伝を違法とすることにつながりかねないからです。
アメリカで炎上するステマ事例は、悪意があったり、あまりに短絡的に消費者を欺こうとしたりする企業の態度が消費者に見抜かれた時です。ステマ自体に嫌悪感が持たれているわけでないというのは、いかにもユーモアのセンスに富んだアメリカらしい発想です。